非晶質アルミノケイ酸塩ナノシートを前駆体とするゼオライトナノシート合成Zeolite Nanosheet Synthesis Using Amorphous Aluminosilicate Nanosheets as a Precursor
大阪大学大学院基礎工学研究科Graduate School of Engineering Science, Osaka University ◇ 〒560–8531 大阪府豊中市待兼山町1–3 C537
大阪大学大学院基礎工学研究科Graduate School of Engineering Science, Osaka University ◇ 〒560–8531 大阪府豊中市待兼山町1–3 C537
通常,多孔体であるゼオライトは内部表面で反応の触媒として作用するため,外表面の形状や表面積については考慮されない場面が多い。しかし,高分子に代表される大きな分子はゼオライトの空孔に侵入できないため,反応は外表面のみで起こる。ゼオライトナノシートは,極めて薄い粒子であり,外表面積が大きい上に,厚みと比較して100倍以上の幅を持つため分離が容易で,触媒としての再利用性が高い。従来,ナノシートは層状化合物の剥離によって合成されてきたが,最近,非剥離性の材料のナノシート化の報告例が増えてきた。様々な界面や層状構造をテンプレートとすることで,ボトムアップ型のナノシート合成が可能になる。本稿では,最近筆者らが開発している,液晶をテンプレートとするナノシート合成法を紹介する。その一例として,非晶質アルミノケイ酸塩ナノシートの合成と,それを前駆体とするゼオライトナノシートの合成,さらに,その触媒性能について解説する。
Normally, zeolites, being porous, catalyze reactions on their internal surfaces, so the shape and surface area of the outer surface are not considered. However, large molecules, such as polymers, cannot penetrate the internal zeolite vacancies, so reactions occur only on the outer surface. Zeolite nanosheets are highly dispersible particles with extremely small thickness, large outer surface area, and more than 100 times wider than their thickness, making them easy to separate and suitable for reuse. Traditionally, nanosheets have been synthesized by exfoliation of layered compounds, but recently, more and more examples of nanosheets of non-exfoliable materials have been reported. By using various interfaces and layered structures as templates, bottom-up nanosheet synthesis becomes possible. In this paper, we introduce the nanosheet synthesis method using liquid crystals as templates that the authors have recently developed. As an example, the synthesis of amorphous aluminosilicate nanosheets and zeolite nanosheets using amorphous aluminosilicate as a precursor and their catalytic properties are also described.
キーワード:非晶質アルミノケイ酸塩;ラメラ相;ナノシート;ゼオライト;触媒
Key words: amorphous aluminosilicate; lamellar phase; nanosheets; zeolite; catalysts
© 2024 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2024 Japan Zeolite Association
通常,多孔体であるゼオライトは内部表面で反応の触媒として作用するため,外表面の形状や表面積については考慮されない場面が多い。しかし,高分子に代表される大きな分子はゼオライトの空孔に侵入できないため,反応は外表面のみで起こる。高分子を反応させるには,外部比表面積を増大させることが重要である。粒子の一方向の長さだけを極端に短くしたナノシート形状は,結晶構造の安定性を保ちつつ,外部比表面積を増大させられるため,種々の触媒の形状として有利であることが知られている。ゼオライトナノシートを合成するには,結晶構造と外形の両方を制御する必要があるため,それぞれの結晶構造に合わせた合成法が開発されてきた。
ゼオライトナノシートの最初の報告であるITQ-2は,層状のMWW型ゼオライトを剥離することによって合成された1)。この手法は,非剥離性の構造のゼオライトには適用できない。次に現れた第二世代の戦略は,結晶成長速度の異方性を利用するものである2)。一般に結晶面ごとに結晶成長の速度は異なるが,一つの面の成長だけを阻害すると,その面内での結晶成長のみが起こり,二次元的に結晶成長することでナノシート形状が得られる。結晶構造制御に用いられる構造規定剤と両親媒性の成長阻害剤を共有結合させた試薬を添加して水熱処理を行うと,ゼオライトナノシートが得られる。実際,顕著な結晶成長阻害の異方性が生じる結晶構造のゼオライトにはこの手法が向いている。
これらの手法で剥離性のゼオライトと異方成長を示すゼオライトのナノシート合成が可能になるが,等方的な成長を示す立方格子や擬立方格子を持つゼオライトのナノシート合成には別の方法が必要と言える。
ご存知のように,非晶質アルミノケイ酸塩(a-AS)は二酸化ケイ素と酸化アルミニウムからなる酸性の非晶質固体である。a-ASは固体触媒の担体3–6)などとして有用であるが,ゼオライトの前駆体7–9)としても用いられる。ケイ素原子が好む四面体配位とアルミニウム原子が好む八面体配位がフラストレートするため,非晶質で比較的安定に保たれる。非晶質は様々な特徴を持つが,筆者らは,「水は方円の器に随う」の如く,非晶質の外形が成長する場の形に添って決まることに着目した。
筆者らは,両親媒性分子の二分子膜が同じ方向を向いてまばらに浮遊した液晶相である超膨潤ラメラ(HL)相を反応場として用いたナノシート合成法を開発してきた。ポリマー10),金属有機構造体11,12),金属13–15)など,様々な材料のナノシート合成に有用である。この二分子膜は「両親媒性分子溶液の液晶相における二次元反応器(Two-dimensional Reactor in Amphiphilic Phases,略してTRAP)」と呼び13),合成法をTRAP法と呼んでいる。TRAP法を用いると,高い外部比表面積(Sext)を持つ薄いナノシートを得ることができる。
本稿では,TRAP法の鋳型である液晶と,各種のボトムアップ型ナノシート合成法について概説した後,筆者らが開発しているTRAP法を紹介する16)。そして,この手法を利用した,a-ASナノシート(a-ASns)の合成について解説する。このa-ASnsを原料として用いたゼオライトナノシートの合成と触媒性能についても紹介する7)。
液晶と聞けば,ディスプレイを思い浮かべるほどに,イメージが定着しているが,実は,これはかなり偏った認識とも言える。元々,「液晶」は,物質の状態の一つを指す言葉として生まれた。人間が液晶の存在を初めて認識したのは19世紀のことである。それは,植物学者のライニッツァーが,コレステロールの研究を行う過程でのことであった17)。にんじんジュースから精製したコレステロールから誘導した物質の融点を測定していた時に,固体を温めると二度融けることを見出した。固相と通常の液相の中間の状態が,液体のように流動性を持ち,結晶のように内部構造を持つ状態であることがわかり,「液晶相」と呼ばれるようになった。そして,液晶相を示す物質のことも単に液晶と呼ばれるため,液晶を用いたディスプレイということで液晶ディスプレイとなり,これが省略されて「液晶」がディスプレイを指す言葉となった,というわけである。
工業製品以外に,もっと身近なところにも液晶が存在している。それは細胞膜である18)。細胞膜が液晶でできていることで,生体内の物質や情報のやり取りが迅速かつ省エネで行われている。身の回りのもの,という観点で視野を広げると,粘土を水に分散させても,石鹸を水に溶かしても,液晶相が発現する19)。細胞膜で合成される膜貫通タンパク質は,疎水性の部分を膜内に固定するために,膜内で合成される20)。液晶相の一種であるHL相は細胞膜と同様に二分子膜で構成されている(Fig. 1)。筆者らは,これを鋳型に用いることで,ナノサイズの厚みを持つシート状の粒子(ナノシート)を合成できることを見つけた10)。
非剥離性材料のナノシート合成には,様々な界面や層状物質をテンプレートとした異方的な成長によるボトムアップ法が適用されてきた(Fig. 2)16)。ボトムアップ法で用いられる界面は,液液界面(Fig. 2(a)),気液界面(Fig. 2(b)),固液界面(Fig. 2(c)),固気界面(Fig. 2(d))である。一方,テンプレートとして用いられる層状物質は,固体の層状化合物の層間(Fig. 2(e))や,両親媒性溶液のリオトロピック液晶の一種であるラメラ相(Fig. 2(f))が用いられる。後者は前者よりもテンプレートが容易に除去できるという特徴を持つ。
(a) liquid-liquid interface, (b) gas-liquid interface, (c) solid-liquid interface, (d) solid-gas interface, (e) liquid phases confined between solid phases (layered materials), and (f) liquid phases confined between liquid phases. Ref. 16. Copyright 2023 Wiley. Used with permission from Wiley.
リオトロピック液晶相とは,異方性を担う分子や粒子の溶液や分散液が示す液晶相で,溶質や分散質の濃度に依存して液晶相が変化する。中でも前述のラメラ相は,両親媒性分子の濃厚水溶液が示す液晶相としてよく知られ,二分子膜を積み上げ,交互に水相と油相の面が現れる構造を持っている。ラメラ相におけるナノシート合成は,単純にラメラ相を示す溶液中で固体材料を合成する。その際,材料が親水性であれば水相で,疎水性であれば油相で,それぞれ成長させると,ナノシートとなる。ラメラ相を用いてナノシートを作製すると,ナノシート分散液の形で得られる。次のプロセスとしてこれを吸着すれば,ナノサイズのコーティングが可能になる21)。しかし,層間距離が小さく,成長過程のナノシートの凝集が起こりやすいことが課題である。つまり,水相か油相のどちらかが厚いラメラ相があれば,薄い方の相で材料を合成することでナノシート化が可能になると予想される。実際に,そのようなラメラ相が知られており,HL相と呼ばれているのである。また,酸化グラフェンやH3Sb3P2O14ナノシートなど,いくつかのナノシートは,適度な濃度で分散液を作製すると,ナノシート間の距離が数10~数100 nmの,HL相と類似した構造の液晶相を示す19)。
HL相はラメラ相の一種である。高濃度溶液でラメラ相を示す両親媒性分子のうちのごく一部の物質が希薄水溶液でもラメラ相を示す。これがHL相であり,膨潤により層間隔が数100 nmとなる。層間距離が光の波長と同程度であり,対応する波長域の光を反射するフォトニック構造となる。HL相に浮かぶ二分子膜の内部に原料を集積して固体材料を合成すれば,非常に薄いナノシートが得られる。これを我々はTRAP法と呼んでおり,実際に1 nm程度の厚みのナノシートが,希薄分散液として一段階の工程で合成できることを報告した。以下,具体的に実例を紹介する10)。
非イオン性両親媒性分子であるポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(CmEn:mはアルキル鎖の炭素数,nはエチレングリコール単位の個数)の希薄水溶液は,HL相を示す代表的な化合物である。一般的に,両親媒性分子の親水部と疎水部の体積比であるパッキングパラメータによって,安定な相の対称性が決まる。CmEnの場合,m/nが2.4から4の時にHL相が安定化する。C12E5(m/n=2.4)水溶液はHL相を示すのに対してC12E6(m/n=2.0)水溶液は示さず,C10E4(m/n=2.5)水溶液は示すのに対してC10E5(m/n=2.0)水溶液は示さない。
さらに,添加剤がこの状況を一変させる。C12E8(m/n=1.5)水溶液はHL相を示さないのに対して,疎水性の1-ヘキサノールを加えていくと,HL相を示すようになる22)。これは,疎水部の割合が増えたことによるとされる。我々は,この疎水性の添加物を高分子の原料に替えることで,二分子膜内で高分子のナノシートを合成できると考えた。我々はスチレンを添加することで,HL相を示さない両親媒性分子の水溶液にHL相を誘起した。そして,重合を行い,ナノシートを得ることに成功した。実際の実験手順は以下の通りである。
まず,両親媒性分子としてm/n値が下限値の2.4に近いC12E6(m/n=2.0)の水溶液に添加剤を加えて観察を行うことで,C12E6の分子集合構造に添加剤が取り込まれてHL相の二分子膜が安定化することを確かめた。具体的には,C12E6を0.09 g,トルエンを0.03 g,脱イオン水を4.38 g混合した溶液を加熱,撹拌して溶液のフォトニック構造に由来する反射色を観察した。対照実験として,トルエンを含まないC12E6水溶液も調製して,同様に観察した。その結果,トルエンを含まないC12E6水溶液は呈色せず,トルエンを含むC12E6水溶液は呈色することを確認した。このことは,両親媒性分子が作る二重膜内に疎水性分子であるトルエンが集積していることを示唆している。
さらに,スチレンを添加物として検討し,同様の結果を得た。そして,C12E6 0.09 g,スチレン溶液0.03 g,脱イオン水4.38 gを混合した溶液を24時間加熱・撹拌して,ポリスチレンナノシートの合成に挑戦した。このスチレン溶液は,NaOH水溶液と脱イオン水で洗浄することで重合禁止剤を取り除き,重合開始剤である2,2’-azobisisobutyronitrile(AIBN)を少量添加したものである。重合後,シリコン基板上に反応液を数滴滴下し,窒素中で5時間焼成して(焼成温度800°C,昇温速度1°C/min)カーボンナノシートを合成した。
このように,ポリマーやカーボンのナノシートの合成が可能である他,筆者らは金属(金・銀・白金等)や金属酸化物,金属有機構造体などについてもナノシート合成が可能であることを報告してきた。
筆者らはTRAP法がゼオライトナノシートの合成にも利用できるのではないかと考えた。a-ASのナノシートを合成して,それを前駆体にしてドライゲルコンバージョン(DGC)法23)を適用することで,各種ゼオライトナノシートを合成できると予想したのである(Fig. 3)。DGC法は非晶質のゲルを乾燥したものを原料にして,ゼオライトとして結晶化させる手法である。従来の水熱合成法では合成が困難な結晶構造や組成のゼオライトの合成も可能にする。以下,単一種のa-ASnsから四種類のゼオライトナノシートを得る手順とその触媒性能について,順番に見ていく。
ここではイオン性の両親媒性分子であるp-オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SOBS)を用いた。SOBSのデカン溶液が示すHL相に浮かぶ親水性のTRAPを用いて合成を行った。テトラエチルオルソシリケート(TEOS)とアルミニウムイソプロポキシド(Al(O-i-Pr)3),水酸化ナトリウム(NaOH),水をSOBSデカン溶液に溶解して,24時間撹拌した(60°C)。反応終了時まで溶液がHL相を示すことを確認した。生成した懸濁液には凝集体がほとんど含まれていないことを,動的光散乱(DLS)法を用いて確かめた。
反応混合物を遠心分離して,メタノールを用いて得られた白色粉末を洗浄して,乾燥した。走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX),X線回折(XRD),透過型電子顕微鏡(TEM),原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察を行い,厚さが1.96±0.67 nm,横幅が395±137 nmのa-ASns(a-ASns)であると同定した。窒素吸着測定により,a-ASnsの外部比表面積が,通常の結晶よりも大きいことも確かめた。また,SEM-EDXによって,SOBSの硫黄が生成物には残っていないことを確かめた。これは,親水性TRAP中での粒子成長は,化学的に異方的に阻害されているのではなく,物理的な閉じ込めによるものであることを示している。
このSOBSは次節におけるDGC法において,ナノシート間の凝集阻害剤としても働くことを確かめており,単なるTRAP以上の効果を持っていることがわかっている。一方で,筆者らは,より安価で非イオン性の両親媒性分子の混合物であるBrij L4を用いて,a-ASnsを合成できることも確かめた24)。この場合,塩基触媒の濃度がa-ASnsの組成を制御するための操作変数として機能する。
DGC法によるゼオライト合成は,a-ASの乾燥ゲルの調製から始まる。凝集防止剤として機能するSOBSとともにa-ASnsを沈殿させて,ゼオライトの構造規定剤の水溶液に浸漬した後,乾燥させて,ゲルを作製した。このゲルを水と別々に同じオートクレーブに入れ,160°Cの水蒸気を用いて結晶化させた。PHI型,CHA型,SOD型,MFI型の四種類の結晶構造のゼオライトナノシートを得るために,異なる構造規定剤を用いた。XRDを用いて,それぞれの結晶構造を同定した(Fig. 4(a))。さらに,TEMとAFMを用いて粒子サイズを測定した。PHI型ゼオライトナノシートの厚さは2.20±1.08 nm,横幅は416±241 nm,CHA型ゼオライトナノシートの厚さは2.13±0.60 nm,横幅は528±106 nm,SOD型ゼオライトナノシートの厚さは2.13±0.18 nm,横幅は219±24 nm,MFI型ゼオライトナノシートの厚さは1.49±0.17 nm,横幅は580±150 nmであった(Fig. 4(b), (c))。生成した懸濁液には凝集体がほとんど含まれていないことを,動的光散乱(DLS)法を用いて確かめた(Fig. 4(d))。
(a) XRD pattern. (b) TEM photograph. (c) AFM photograph and cross-section. (d) DLS analysis. (e) NH3-TPD profiles of CHA type zeolite nanosheets and conventional CHA crystals. (f) Product distribution in the LDPE cracking reaction of uncatalyzed, conventional CHA crystals (10 wt%) and CHA type zeolite nanosheets (10 wt%). Ref. 7. Copyright 2022 Wiley. Used with permission from Wiley.
触媒としてよく用いられるMFI型とCHA型のゼオライトナノシートが得られたことが本研究の重要な成果と言えるだろう。特に,第二世代のナノシート合成法でもMFI型ゼオライトナノシートは報告されているが,CHA型については初めての報告となった。
本研究で初めて得られたCHA型ゼオライトナノシートについて,ブレンステッド酸サイトの量を推定した。合成したCHA型ゼオライトナノシートと従来のCHA型ゼオライト結晶について,アンモニア昇温脱離測定(NH3-TPD)を行った(Fig. 4(e))。CHA型ゼオライトナノシートについては,ブレンステッド酸サイトの量が0.230 mmol g−1と推定された。これは,従来のCHA型ゼオライト結晶(0.257 mmol g−1)と差がないと言える。つまり,CHA型ゼオライトナノシートは酸触媒として機能すると考えられる。
そこで,CHA型ゼオライトナノシートを用いて,低密度ポリエチレン(LDPE)のクラッキング試験を行った。CHA型ゼオライトナノシートと従来のCHA型ゼオライト結晶をそれぞれ10 wt%添加したLDPEを調製して,無添加のLDPEと比較した。ゼオライトを添加すると,低級オレフィンの選択性が向上した(Fig. 4(f))。特に,CHA型ゼオライトナノシートは従来のCHA型ゼオライト結晶と比較して,さらに低級オレフィンの比率が向上した。汎用プラスチックの代表であるポリエチレンから,もう一つの代表的な汎用プラスチックであるポリプロピレンの原料であるプロピレンが高選択的に得られたことは,特筆すべきである。外表面に剥き出しになったブレンステッド酸サイトがクラッキング性能に良い影響を与えたと考えられる。
これまで,ナノシートのボトムアップ合成には,種々の界面や層状構造がテンプレートとして開発されてきた。ボトムアップ法でしか生み出せないナノシートは未知の魅力を秘めている。ウェハースケールのナノシート合成や,ナノシートの低温合成,ナノシートのヘテロエピタキシー合成等,合成法は日々発展している25)。ただし,工業的生産には至っていないことも多い。それは,通常のボトムアップ合成法が大量生産に向いていないことによる。一方で,ソフトテンプレート法はすでにナノ粒子合成に利用されている。本稿で紹介した,両親媒性分子溶液の液晶相であるHL相を用いたソフトテンプレート合成であるTRAP法は,見方を変えれば通常の反応溶液に低濃度で界面活性剤を加えるだけである。つまり,原理的には,工業的生産に用いられる反応器を転用できるはずである。
TRAP法によって合成したa-ASnsは,構造規定剤を用いたDGC法により4種類のゼオライトナノシートに転換することができた。SOBSを凝集防止剤として用いると,通常のDGC法と同じように,構造規定剤を用いてゼオライトナノシートに変換できた。この方法は他の多くのゼオライトをナノシート化にも利用できるだろう。膜厚が重要なファクターとなるゼオライト触媒膜反応器でも,透過速度が求められる反応器においてはナノシートが最適な形状と言えるだろう。また,合成したCHA型ゼオライトナノシートは,MTO反応やポリマー分解の触媒,分離膜など,様々な用途に展開できる可能性を秘めている26)。
本稿で紹介した研究は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業「先端計測ナノテクノロジープラットフォーム」,大阪大学超高圧電子顕微鏡施設(ナノテクノロジー総合オープン施設)助成番号JPMXP09A20OS0024,JPMXP1222OS0034,および日本学術振興会科研費JP20H05161,JP22H04477,JP22J10688の援助を受けて行われました。関連する実験においてご協力いただいた大阪大学の平井教授,白石博士に感謝申し上げます。また,試薬をご寄付いただいたSachem, Inc.に感謝致します。
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